「神の手」から「神の手の内」へ

2022年04月06日 10時00分

「神の手」から「神の手の内」へ

私は「アシンメトリ現象」の解消を目指して、20年以上にわたって人体と向かい合ってきた。その集大成がモルフォセラピーとなり、今では多くの方に実践していただいている。


 モルフォセラピーの習得者には医師や理学療法士、柔道整復師などの医療のプロだけでなく、アマチュアのままで活躍している人も大勢いる。そのなかの一人のMさんは、この技術を仕事先での信頼構築に活かしているそうだ。


 あるときMさんは、商談中のお得意様が腰痛で苦しんでいるのに気がついた。そこで「少し腰に触ってもいいですか」と了解を得てから、すかさず腰椎のズレを見つけ出し、その場でサッと戻してしまった。ほんの数分でたちまち痛みが消えたので、驚いたお得意様は思わず「神の手だ」とうなったという。これでMさんに対する信頼も大きなものになったことだろう。


 実はこんな話は、モルフォセラピーの実践者にとっては珍しいことではない。「神の手」とは治療効果に対する最大級の褒め言葉である。だがモルフォセラピーを実践している人なら、だれでも一度はこの称賛を耳にした経験があるはずだ。
 
 世には自称「神の手」もあまた存在する。また治療家を志す者の多くは、「神の手」となることで業界のカリスマを目指そうとするものだ。しかし今はそんな時代ではない。たかが腰痛を治した程度で有頂天になるようでは、あまりにもスケールが小さい。日本モルフォセラピー協会では、世界中を「神の手」で埋め尽くすべく「神の手」の大量育成を目指しているのである。


 もちろんどれだけ「神の手」を生み出したとしても、本物の神の手を創れるわけではない。神ならば、100%全ての腰痛を治せなくてはならないからだ。それでも神に近づこうとする努力は評価されるべきである。


 では実際のところ、モルフォセラピーの効果はどれほどなのだろう。モルフォセラピー医学研究所関野吉晴先生は、腰痛に対するモルフォセラピーの有効性は7割ほどではないかと話していた。私もだいたいそれぐらいではないかと思っている。本物の神には及ばないとはいえ、有効性7割は医学的常識から見れば信じがたい数字である。
 通常の医療では、プラセボ効果の3割を超えさえすれば治療効果ありと認められる。野球なら3割を超えれば強打者だが、7割バッターなどあり得ないのだから、モルフォセラピーの効果には自信をもってよい。


 しかし野球とちがって、民間療法の世界では加算方式ではなく減算方式で評価される。効果が現れなかった3割の人にとっては、7割の有効性など関係ないどころか、全否定の対象となる。こちらでは「神の手」とあがめられる一方で、あちらでは不審な目で見られてしまうのである。


 それではなぜ治らない人がいるのだろうか。施術者の単なる技量不足を除くなら、答えは大きく3つに分けられる。


 1つ目はかんたんな話で、その症状の原因が背骨のズレではない場合である。これは案外少ないが、ある一定数は存在している。


 2つ目は、患者の安全性を考慮して、施術者が安易には手を出せないケースだろう。具体的には、患者が妊婦や成長期の子供であるとか、骨粗鬆症、がんの骨転移、血栓、動脈瘤などがあるときだ。


 患者本人から「大丈夫だからやって」と強くいわれることもあるが、この状態の体に触れること自体に危険が伴うので、信頼関係のある家族以外は手出しすべきではない。
 またモルフォセラピーのように微細な力でなければ、さらに危険であることはいうまでもない。だが医学知識のない人は、施術を受けることにリスクがあるという認識がない点も知っておきたい。


 そして3つ目は、矯正の効果がその場ではわからなかった場合である。モルフォセラピーの有効性7割とは、あくまでも矯正直後の話なのだ。しかし施術の場では効果が実感できなくても、数時間後や翌朝に症状が消えていることは多いものである。


 しかし患者としては、その場で効果が感じられなければ満足度が低い。翌日になってから症状が消えていることに気づいても、「自然に治ったのかな」という程度にしか認識してもらえない。それが施術者としては悩ましいところなのである。


 ある整形外科医の本には、半年後の追跡調査の結果まで治療効果の実証データに含めていた。半年もたってからでは、腰痛が治ったのは自然治癒だった可能性も大きいはずだ。これが民間療法であれば、半年後の結果など全く評価に値しない。こちらの世界はそれほど甘くはないのである。


 このように見ていくと、「治らなかった」とされる背景には一定の傾向があることがわかる。失敗の法則を見つけるのはたやすいものだ。逆にいえば、成功は偶然にでも起こる。しかし治った理由が「たまたま」であってはならない。


 そこであえて、なぜ治ったのかの理由を極限まで掘り下げていく必要がある。そのしくみを解明することが、人体の普遍的な法則の探究になるのだ。モルフォセラピーでは、それが「アシンメトリ現象」の発見につながった。


 したがってわれわれは、決して「神の手」と呼ばれることに安住してはならない。各自が技術の安全性や効率を高めるだけでなく、施術を通して「神の手の内」まで知り尽くそうと努力することが最も重要なのである。(花山 水清)


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