腰痛の原因に新展開? ひっくり返ったストレス原因説

2023年09月06日 10時00分

腰痛の原因に新展開? ひっくり返ったストレス原因説

カテゴリー: モルフォセラピー

私は今まで、モルフォセラピーの考え方のなかには、精神面の話を一切持ち込んでこなかった。


背骨のズレによる症状は、すべて物理的な問題として説明し尽くせるので、精神の話が入り込む余地などないからだ。これは自動車の修理に精神の話が必要ないのと同じことである。


こんなことをいうと、人間の精神性をないがしろにしているように聞こえるかもしれない。だが体の不調に関しては、安易に精神面の話を持ち出すと主題がぼやけて正しい結論を導き出せなくなるはずだ。今の医療にはその傾向が強いのが気になる。


たとえば前回の協会の勉強会で、過敏性大腸症候群(IBS)の患者が背骨のズレの矯正で治癒した症例発表があった。


過敏性大腸症候群では、急な下痢を繰り返すなどの排便障害によって日常生活に支障をきたす。そのせいで会社や学校に通えなくなる人が増えて、今や社会問題化しているのである。


病院で検査しても、炎症などの具体的な原因が見つからないから、その多くが精神的なストレスが原因だと診断される。


ところがそう診断されてしまうと病院では決定的な治療法がないので、毎度のことながら「精神的ストレスをためるな」という話になってしまうのだ。


しかし「ストレスをためるな」といわれても、所詮ムリな要求である。老化の原因は年をとることなので、「なるべく年をとらないように」といっているようなものだろう。


実は過敏性大腸症候群でなくても、下痢や便秘が背骨のズレの矯正によって解消される例は珍しくない。ズレの矯正で難病の潰瘍性大腸炎が解消した例まである。


今はまだ、背骨のズレという物理的な現象が消化器の働きにまで影響することが知られていないだけなのだ。


しかし医学の世界では、検査によって肉体に問題が見つからなければ、即、精神の問題だと判断されることが多い。そのため腰痛からがんに至るまで、その原因の一つに精神的ストレスがドッカと居座るようになって久しい。


ところが最近、この傾向が変化し始めているようだ。


先日、腰痛治療界の権威として有名な菊地臣一氏(元・福島県立医科大学学長)の近著を読んで、整形外科における腰痛の考え方に大きな変化が訪れていたことを知った。


以前は、検査しても原因を特定できない腰痛は、精神的ストレスによるものだと診断されていた。その割合も徐々に上がっていき、しまいには腰痛患者の9割はストレスが原因だというセンセーショナルな数字になった。


それを報道するマスコミも「現代はストレス社会だから」といって、腰痛ストレス原因説を積極的に後押ししていたはずである。


だが2020年に出されたこの本では、ストレス説はすっかり鳴りを潜めていた。


その理由は、MRIなどの画像診断の進化と、痛みの部位を見つけるSTIR-MRIなどの登場によって、腰痛の原因を特定できるようになったからだという。


つまり以前の検査では、肉体に原因はないと診断していた腰痛が、「やっぱり肉体の問題でした~」と訂正しているのである。


そして今では、腰痛の8割近くは原因が特定できているというのだから、正反対の結論に変わったわけだ。これを進歩と見るか、単にふりだしに戻ったと見るかは微妙な判断となる。


もちろん、これで腰痛が治せるようになったかどうかが重要だ。この本が出てからすでに3年経過しているから、結果が気になるところである。


そんな関心に応えるように、ある健康系の雑誌で「腰痛の8割は原因がつきとめられる」という特集記事を見つけた。そこには、今までは原因が特定できなかった腰痛が、最新技術で診断可能になったことを大きく取り上げていた。「それならば」と期待してページを繰る腰痛患者の姿が目に浮かぶ。


ところがこの記事でも、決して腰痛が治るようになったとは書かれていないのである。専門医からのコメントでも、治療法として最も推奨されているのは「運動療法」だった。


これはストレス原因説のときと同じ論法で、腰痛が治るかどうかは、結局は患者の心がけ次第だという結論なのである。


さらに運動療法に対する医師たちのアンケートの結果は、「エビデンスには中程度の確信がある」と結ばれていた。エビデンスに対して「中程度の確信」という表現が成り立つことにもおどろいたが、私はつい「関白宣言」の浮気の下りを思い出してしまった。運動療法には「効果があるんじゃないかな」というレベルの話なのだろうか。


先述の菊地氏の本には「腰痛は3か月もすれば自然治癒する」と書かれていたので、運動療法の効果があったとしても、自然治癒との区別がつきにくい気もする。


運動といってもウォーキングなら、腰痛に対する効果には以前からエビデンスがあるのだから、そこを推してもらいたかった。


いずれにしても、ストレス説が腰痛の原因から後退した意義は大きい。今後は腰痛だけでなく、これまで精神的ストレスに転嫁されてきた多くの疾患が、肉体の問題へと回帰していくのだろう。


しかし仮に最新の検査方法で、腰痛の原因が「A」だと特定できたとしても、それで問題が解決したわけではない。そこから治癒率が飛躍的に向上しなければ、その原因「A」もまたまちがっている可能性が高いのだ。


私としては、病院での検査技術がさらに向上して、一日も早く背骨のズレの特定ができるようになることに期待している。(花山水清)


 


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