間質性肺炎の咳や胃潰瘍の痛みへの対応

2022年05月04日 10時00分

間質性肺炎の咳や胃潰瘍の痛みへの対応

モルフォセラピーの手技はいたってかんたんである。私の書いた本や手技のDVD、ネット配信の動画を見ただけで、ある程度マスターしてしまう人もいる。介護の仕事に、モルフォセラピーを取り入れているSさんもその一人だ。


 モルフォセラピーのDVDを見たSさんは、高齢者施設でお年寄りの世話をしながら、背骨のズレを見つけてはすかさず治すことを日課にしている。
 当のお年寄りたちは、やさしく背中をさすってもらっているとしか感じていない。それでも日常の動作の一つとして、背中をさすりながら矯正しているうちに、みな元気になっていくのがSさんにはわかる。今までほとんど歩けなかった人が、歩けるようになったこともあった。だれに褒められるわけでもないが、やさしいSさんとしてはお年寄りが元気になるのがうれしくてたまらない。ますます介護にもやりがいが増しているようだ。


 このようにモルフォセラピーというのは、たとえだれかに直接教わらなくても、日々実践していれば必ず上達する。実践を重ねた経験こそが上達の秘訣なのである。


 そんなSさんが、あるときおもしろい発見をした。
 いつものように高齢者の体に触れてみると、感触が他とはちがっているところがある。そこだけ弾力が失せているのだ。その部分を注意深く指先で探っていくと、奥にブツブツとしたものがあるのを感じた。そこで弾力のない部分の中心に向かって、まわりから指先でそっと圧をかけてみた。すると弾力の失せた部分に、少しずつ張りが戻ってきたのである。
 Sさんにはそれが何なのかはわからなかったが、張りが戻ったのは悪いことではないと感じたという。この話を人づてに聞いて、私はたいへんうれしかった。


 モルフォセラピーの目的は、背骨のズレの矯正による「アシンメトリ現象」の解消である。しかし疾患の原因の全てが背骨のズレというわけではない。背骨のズレが原因でなければ、その症状に対しては全くちがったアプローチが求められる。今回のSさんが行なった手技もその一つである。彼はだれにも教わらないのに、自然にこの技術を会得したのだった。


 それでは彼が行なった手技とはどのようなものだろうか。
 体の組織というのは、健康体であればどこに触れても同じように感触は均質だ。ところが「アシンメトリ現象」では、左の起立筋が右に比べて緊張して硬くなっている。また打撲などの場合は、組織が部分的に硬く腫れ上がる。


 それとは逆に、Sさんが見つけたように組織の弾力が局所的に弱まっていることがある。たとえば、かつて肺炎や結核を経験した人の胸部を見ると、病巣があった辺りは弾力が失われてへこんでいる。過去にそのような病歴がないのであれば、肺がんではないかと疑うことになる。つまり組織の張りがなくなっているのは、現在何らかの病巣があるか、かつて炎症を起こした痕跡だと考えられるのだ。
 そして何らかの炎症があると、Sさんが見つけたようにブツブツとしたリンパの腫れらしきものが指先に当たる。この感触の有無が、その状態が正常か異常かを見きわめる目安にもなる。


 最近、新型コロナウイルスによる肺炎が問題となっているが、もっとも治りにくい肺炎に間質性肺炎がある。間質性肺炎は、抗がん剤などの薬物投与によって引き起こされる肺炎である。
 この間質性肺炎にかかって以来、咳が止まらなくなっている男性がいた。彼は病院で、ありとあらゆる治療を試みたが一向に咳が止まらない。あとは自然治癒を待つより他に手がない状態だった。


 実は間質性肺炎による咳だと診断されていても、その咳の原因は単なる胸椎のズレだったということは多々ある。そのため、原因となっている胸椎のズレを矯正すれば咳が止まる。ところが彼には、犯人らしき胸椎のズレが見当たらない。しかし肺そのものの異常が、咳の原因となっていることは明らかだった。


 咳が続いている場合、胸椎がズレていなくても肺の周辺には何らかの異常が見られるはずである。そう考えて彼の胸部を丹念に調べてみると、第3胸椎から第5胸椎の右側の部分だけ、組織の弾力が消えていて明らかに張りがない。


 こういう状態のときは、その弱った組織に向かって周囲から指先で軽く1分ほど圧をかける。さらに圧をかける方向を次々に変えながら、この動作を何度も繰り返す。すると弱っていた組織の部分に張りが戻ってくる。それと同時に、それまで散々彼を苦しめていた咳も止まった。「あ~空気が奥まで入っていく!」といいながら、彼は深呼吸してこの大きな変化におどろいていた。
 もちろんこれで間質性肺炎が治ったわけではない。だが、ひどい咳を止めてあげることで炎症がおさまれば、自然治癒が早まる可能性も出てくるのだ。


 咳だけでなく、胃潰瘍の激しい痛みに対してもこの手技で対処できる。まずは背骨のズレの有無を確認し、ズレの矯正を行なったあと、患部付近にそっと圧をかけて炎症を抑えてやると、症状が緩和されるので試してみるとよい。


 そういえば私は年齢のせいか、ここのところ誤嚥の回数が増えた。米粒のような小さなものが気管に飛び込んで、激しく咳き込んでしまうのだ。誤嚥性の肺炎は、高齢者などではしばしば命取りになるから油断できない。私の場合、誤嚥したときにはいつも第5頚椎の右側あたりにしこりができる。そのしこりに指先で圧をかけ続けると、必ず誤嚥したものがポロッと出てくる。


 こういった手技はだれでもできる単純なものなので、背骨のズレの矯正とあわせて使えば、より多くの場面に対応できて心強いだろう。モルフォセラピーは、その実践者がそれぞれ工夫した技術を研究会などで共有し、そこからさらに進化させ続けていくことが望ましいと私は思っている。(花山 水清)


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